よくない言葉集

よくない言葉を連ねます。日本語が不自由なので閲覧非推奨です。

"させていただく" が苦手な話

言葉とは自然に発生したもの故, その意味がうつろい*1ゆくのも当然である. しかし, ただ物事を表現することだけが言葉の働きではない. 敬語がその最たる例である. 文に一手間加えることで人と人との繋がりを同時に表現し, その関係性を明確にすることが出来る.

ここ数年でやたらと耳にするようになった, "させていただく" という敬語表現のようなものが苦手になった話をする.

正当な場合と違和感

文化庁の "敬語の指針"*2 によれば, "させていただく" は以下の条件下で使われる表現である.

「(お・ご)......(さ)せていただく」といった敬語の形式は,基本的には,自分側が行うことを,ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い,イ)そのことで恩恵
を受けるという事実や気持ちのある場合に使われる。

もちろん, 定量的な基準など存在しない以上, 上の2つの条件をどのように満たすかは個人の考え方による.

しかし, 文献中でも触れられている通り, この表現は冗長になりうるため, 多用は避けるべきだ. 敬語表現を用いることでかえって冗長性が生まれるならば, その言葉は "時間の無駄" であり, そこには真の敬意など存在しない.

さらなる違和感

冗長性以外にこの表現が苦手な理由となる違和感は, 権威の示唆や自己肯定の無さだ. 適切な状況として, 役目を任命された場合などは "許可を受けて", "恩恵を受ける" と考えられる. この場合なら相手の力や存在を含めてこの言葉を使うべきだろう. だが, あくまで自分が主体となる行為に対してこの表現を用いることで, その人はなんらかの権威の下で管理されているのではないか, と感じることがありうる. そして, 実際にはそうでないならば, その人は自分の力でその行為をはたらくという自覚がないのかと思う. こうした過度なへりくだりに対してバカにしているのかと感じる.

あえて使う例

これは B2 のときの英語コミュニケーションの担当講師から教わったのだが, "させていただく" とあえて言う場合があるらしい. それは, "実家に帰らせていただきます" だ. これは, 許可を受けるようでその実一方的な行為を意味する場合である. 人によっては, 自分が主体となる行為に対してこう表現することで身勝手さなどの印象を抱くともいう.

冒頭でも述べたとおり, 敬語表現は関係性を明確にするものだ. そして, 我々は相手を敬う気持ちを大切にしろと教育されてきたはずだ. だから, 敬語表現は大切にしなければならない. 新しい言葉が生まれたり, 元からある言葉の意味が変化したりしたとしても, 敬語だけはいつの時代も守らねばならない. 必要な場面に遭遇したときに, その場を乗り切るためになんとなく使うようにして, 形骸化した言葉を話すようになってしまってはいけないのだ. 自戒を込めて.